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2019-11-12

Letter 12 − 今年の夏 − 豪雨

 六月の終わりから七月中旬にかけて、激しい雨の日が続いた。毎年この時期の南九州では雨が多いけれど、ここまで降るのかというくらい、たくさん降った。オフィスの窓から降り続く雨を見ていて、小学校の教室の窓から見た雨を思い出した。だだっ広い校庭に、それはもう際限なく降り注ぐ雨の情景を、いまも憶えている。
 僕はむかしから雨が嫌いじゃないし、そのくらいじゃんじゃん降ってくれたらなんだか気持ちいいくらいなのだけれど、今回の雨はなんだかこわかった。雨は数日間にわたって降り続いて、やむ気配も感じられず、警報が鳴ったり、「記録的な大雨」という報道と、土砂崩れや洪水などの場面が映し出されるテレビの画面を見ていて、いつもなら思わないけど、もうこれ以上降らなくていいよ、と思った。もう十分降ったじゃないかと。

 ばあちゃん、どうしてるかな。山に囲まれた家で、いまも一人で暮らしている。こんな大雨の日は、さびしかろう。電話で無事を確認しても、埋め合わせできない気持ちが残る。

 雨音が迫る部屋の中でひとり、七尾旅人さんの音楽を聴く。Soundcloudにアップされている「あめふりの歌」、鼻唄ラジオ。たぶんレコーダーの前で、彼が一人で録音したものだ。旅人さんの声はとてもパーソナルな領域にすっと入ってくる。まるで自分に語りかけてくれているかのように、その声は胸に響く。爪弾くギターと飾らない声、シンプルな言葉。こんな雨の日でも、それさえあれば、一人じゃないと感じられる。ばあちゃんにもこの曲を聴かせたい。こんな音楽が、雨の中一人佇んでいるたくさんの人たちに届けばいいのにと思う。