Sound Clips
ぼくの日常から生まれる音楽、音を綴っています。
“Crystal line” Released in 2018
始まりはどこからだろう。
ふっと浮かんだメロディーを口ずさみながら歩いた道か。
シンセサイザーを机の上に置いて、一人弾き始めた川沿いの小さな部屋か。
一瞬、目の前に現れて消えた曲の全景を思い出しながら、音を鳴らす。
日々歩きながら聴こえてくる音を、キーボードを使って再現し、昨日までのトラックに今日の音を重ねる。
そして月日は巡り。
気付いた時にはそこに空間が立ち上がっていた。
自分で作ったその空間のなかで、僕は呼吸し、何かを取り戻していた。
― Crystal line ―
1. アラベスク
この世は迷宮。「はじまり」の後、世界は紋様のように幾重にも連なり、広がり、回り続ける。そこに産み落とされた僕たちは、光を求めて走り続ける。そして、いつか巡り逢う。穏やかな風が吹く場所で、僕たちは目と目を合わせ、たしかなものを結ぶ。たとえ次の瞬間には離ればなれになってしまったとしても。
2. reborn
あたらしい朝、あたらしい風。世界は瞬間ごとに刷新していく。
あたらしい空気に触れ、わたしは何度でも生まれ変わる。
3. The Flow of the Emotions
フラットな自分、晴れやかな自分、ふさぎ込む自分。胸にうごめく感情は常に形を変え、色を変える。
不安、闘い、そして浄化。いくつもの感情が声となって織り重なり、メロディーが立ち上がる。
4. Crystal line
思いが時の流れのなかで結晶化する。振り返れば、ひとつひとつの結晶が星のように光っている。その点を結びながらここまで歩いてきた。
つないだ線は、宇宙の闇を行く旋律。そしてその線はまた、次の点へとつながっていく。
5. Le passage sur l’eau clair
レストランでアルバイトをしていた頃、窓の外に広がる水辺の風景を眺めていたらメロディーが浮かんできた。揺れる水面、透き通る空の色。そのイメージは宮沢賢治の短編小説『やまなし』に結びついた。
季節の移ろいによって変わりゆく川底の風景や、蟹の親子が水の流れにのって旅する様子を、楽器の音やフランス語の響きを重ねながら表現した。
6. Driving Highway
夜の空気、うらぶれた思い。窓の外で過ぎ去っていく灯りと、遠いネオン。シャンパンゴールド色のフィルターにかけられた、脳裡に焼きつく夜の情景。
7. 記憶の扉 -A Door to the Ancient Memory-
記憶の底からピアノの音が聞こえてくる。その場所は、放課後の教室か、森の木陰か、それとも揺りかごか。
かつてそこで呼吸した、あたたかな陽が差し込む場所。もう戻れないその場所の記憶を、古いアルバムのように胸にしまう。
8. White Room
曇り空の昼下がり。静かな風が吹いて、カーテンが揺れている。眩しい朝、開け放った窓から空と海が見える。
わたしはこの場所で世界を見つめている。どんなことがあってもここに戻ってくる。わたしの小さな白い部屋。
曲を作ることは、自分の内面にあるイメージを取り出してくることだと思っていた。
でも、思えばそのイメージは、外界にある多種多様な音に共鳴して形作られたものだった。
自分の内側にあると同時に、外側にも存在するもの。
そう捉えたら、内面と外界、というふうに区切っていた境界線が薄くなって、より広々とした世界に出られた気がした。
この宇宙で鳴っているあらゆる音に耳を澄ませる。
共鳴した音に返答するように、自分の身体を通して音を発し、今度はその音に別の誰かが耳を傾ける。
そんな限りない循環の中で、心と心が見えない通路でつながっていきますように。
心地よい響きが世界にみちていきますように。
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